蜥蜴転生 ~趣味人間、異世界にて最強を目指す~ 第1話
プロローグ
第1話 人生終了
「石橋さん、聞いてますか?石橋さん!」
「ん?あぁ、春奈ちゃんか。なんだい?」
「なんだい?じゃありませんよ!せっかくの飲み会なんですから、小説のコト考えるのは止してください。っていうか、今までの話全スルーだったんですか?」
「あ~ごめんごめん。ってか、バレてたの?」
「そりゃバレますよ。何年の付き合いだと思ってるんです?口元が微妙にニヤついてるときは大抵小説のことを考えてることぐらい、分かります」
「ありゃりゃ。ま、伊達に5年間俺の助手はやってないね。
で…君の名前はなんだったか…」
(どーも、特に興味のないコトは覚えられないんだよねぇ~昔から…。うん?
でも、よく見たら美人さんじゃないか。なんで俺は興味を持たなかったんだ?)
「石橋さん。私の彼女を悲しませるようなマネは止してくれませんか?」
(あぁ…そうか。こぶ付きだったからか)
「悪いね。一旦小説のコトを考え出すと止まらなくてね…。
大丈夫。ちゃんとこっちに意識向けとくから」
「はぁ…では、申し訳ありませんが…改めて自己紹介から始めましょうか。
私は石橋先生の助手をやっています酒井春奈です」
「石橋和馬です。知っての通り、ライトノベルを書かせてもらっています」
「榊原彰です。この度は御合席いただきありがとうございます。
春奈さんとは、小学生のころからの友人です」
「小野椿です。彰と同じく春奈さんとは小学生のころからの友人です。
石橋先生の作品はいつも楽しく読ませていただいてます」
そう、何故花よりラノベ…食い気よりラノベの俺が男二人女二人という人数で飲み会なんてことをすることになっているか…それは、俺の助手である春奈ちゃんが友人と飲み会をすることになり…そしてその席に俺も呼ばれたというコトである。
まぁ、これでも名の知れたラノベ作家である俺だが…やはり、俺の小説をよく読んでくれる人…つまり、俺のファンに呼ばれたのだから嬉しく思うのだが…
どうも、フリーの女の子ではなかったせいかやる気が起きない。
「それで…あの、石橋先生。サイン…くれませんか?」
「いいですよ。どこに書けばいいですか?」
「では…この色紙にお願いします!」
慣れた手つきでいつも通りサインを書く。
これで、フリーの女の子だったらもっとサービスするんだけどなぁ…。
彼女…欲しいなぁ。春奈ちゃんは助手だし話は合うからよく遊びに行くけど付き合う相手は結婚相手って決めてるし…何より恋愛感情と言える感情を抱いてないと思うんだよなぁ…俺。まぁでも今度、一回アプローチしてみようかな。
「ありがとうございます!石橋先生!」
「いやいや、光栄の至りって奴ですよ。私とてまだ25歳です…。
デビューは17歳でしたからまだ8年しかラノベ作家としては活動できていません。
ですから、まだまだ若輩の身…これからも頑張りますよ!ってね」
「はい!頑張ってください!」
「なぁ…春奈。俺実はまだ読んだことないんだけどさ…そんなに面白いのか?」
「えぇ。すっごく…まぁ、ジャンル的に人は選ぶけどね」
「そっか…今度、一冊買ってみようかなぁ…正直、椿がどうしてもっていうから呼んだってだけなんだよ…俺からすると」
…小声で話してるつもりなんだろうが生憎俺は地獄耳でな。
聞こえてるぞ二人とも…。まぁ、別に悪口でもないからスルーしとくか。
「私、先生のデビュー作の次作である『竜騎士の少年』が特に好きなんです!」
「あぁ…アレですか。まぁ、アレはアニメ化もしましたし…私としても嬉しい限りでしたよ。主人公のキャラを声優のたくっちさんがうまく表現してくれましたし」
「ですね…そういえば、質問をいくつか作ってきたんです!」
「ほう…質問ですか?」
「はい!先生が小説を書く理由って何ですか?お金ですか?名誉ですか?」
「愚問ですよ。私は読んで欲しいから書くんです。何より私自身が書いてて楽しいから書くんです。自分が楽しくないものを書いていたって読者は楽しめませんよ。
そんなものは、自分を偽って書いている偽物にすぎませんからね」
そう、自分の心に嘘をついて書く作品というのはつまらないモノだ。
何故なら、作者が書いてて楽しくないというコトは作者自身が作品を書くための努力など一切していないと言う事なのだから。
書いていて楽しくない作品のために果たして自分の時間を使うだろうか…。
本気でアイデアを捻りだし、全てを犠牲にしても作品を書く事が出来るだろうか。
答えは否である。読者は作者が自分オリジナルの作品を書こうと必死になって努力した作品だからこそ評価する…俺は、そう思っている。
「そうですか…期待以上の返答ありがとうございます!あの…ここからは作品と言うか先生個人についての質問なんですけどいいですか?」
「ははは…別に構いませんよ。個人情報は言いませんがね」
こうして、どんどんと出てくる質問に俺は答えていき…あっという間に解散時間が来た。現在時刻は夜の11時…今いる東京から自宅のある横浜までの終電は54分後。
タクシーをチャーターする必要はなさ……いや、あるな。
「ほら、春奈ちゃん?ちゃんと立って」
「うへへ…ほらぁ~石橋さぁん。もっと遊んできましょうよ~」
「はぁ…やたらと抱き着いてくるのやめてくれないか?勘違いするだろ」
「わざとですよぉ~。石橋さんなら私……いいですよ?」
・・・煩悩退散ッ! これは酔った勢いで言っているだけであり俺に対して特別な感情をいだいているとかそんなわけはない…ハズだ。好かれるようなことはやっていないし…顔だって良くも悪くも普通なんだし………。
「あれぇ~石橋さんが…三人いるように見えますぅ~」
「酔い過ぎだよ君。その辺で吐いちゃった方が良いんじゃないかい?
見ないようにしとくから―――」
「うっぷ…」
「―――って、ちょ…!」
その時、俺の目に映ったのは春奈ちゃんが今にもトラックに引かれそうな場面。
そしてその時浮かんだ俺の感情は…春奈を死なせたくない…だった。
「春奈ーーーッ!」
「なんですか~?石ば…」
春奈ちゃんを歩道まではじき出してから、どんどんと湧いてくる恐怖。
死にたくない、こんなところで死にたくない。
ドスッ!
「グフッ!」
吹き飛ばされあまりの痛みに意識が飛びかける。
内臓が幾つか潰れただろう。肋骨が折れて灰に刺さっている気もする。
呼吸が上手くいかない。
「石橋さん!石橋さん!」
青ざめた表情で、必死に俺の名を呼ぶ声が聞こえる。
血で視界が濁り、ハッキリとは見えないがこの声は春奈ちゃんだ。
「あぁ―――よか…た」
「喋らないでください…さっき、誰かが病院に連絡してました。
すぐに救急車が来ます!絶対、助かりますから!頑張ってください!
意識を保ってください!寝ちゃダメです!」
「は――はは、無理を……言う…ね」
「頑張って…お願いします!死なないでください!」
「俺―――さ。さっき…君が……轢かれると…ゴホッ…思った時…
思った…死んで…ほしくないっ…て……生きて、くれ…しあ…わせ…に。
春奈ちゃん………もう死ぬ俺から…ゴホゴホッ……言われても、めい…わく……だろうけど……言わせて……おくれ…?君を……愛していた」
「わ、私もです!ですから死なないでください!私を独りにしないでください!
勝手に死んだら嫌いになります!嫌われたくなければ頑張ってください!」
「はは――――それは……困った………なぁ」
「和馬さん?和馬さん⁉ 起きて…!起きてください!
うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
こうして、石橋和馬の生は終わりを告げた。
趣味を仕事に変え生き最後の最後男の矜持を守った男石橋和馬、そのあまりにも強靭で誇り高き魂は…今、世界の壁を越え…転生することとなる!